スウェーデンの子どもオンブズマン

「各国の動き：スウェーデン子どもオンブズマン法」

平野裕二

季刊子どもの権利条約２号（１９９８・１１）掲載

スウェーデンの「子どもオンブズマン事務所設置法」は１９９３年５月１３日に議会で可決され、同年７月１日から施行された。法律そのものは、次に示す２条だけから成る非常に短いものである[＊]。

第１条

子どもオンブズマンの職務は、子どもおよび若者の権利および利益に影響を与える問題を監視することである。オンブズマンは、法律およびその他の規則ならびにその運用が、国連・子どもの権利条約によるスウェーデンの義務および責任に一致しているかどうかという点に、とくに注意を払う。

第２条

子どもオンブズマンは特別審議会の支援を受ける。オンブズマンは同審議会の長であり、一定の期間、その活動を指導する。政府はオンブズマンおよび同審議会の他のメンバーを任命する。

オンブズマンの職務は、同年６月３日に告示された「オンブズマン指示規則」により詳細に示されている[＊]。

第１項　＝略（法第１条と同文）

第２項　子どもオンブズマンは、その活動分野の範囲内で次のことを行なう。

(1) 子どもおよび若者の権利および利益を維持することを目的とした措置のイニシアチブをとること。

(2) 一般の議論において子どもおよび若者を代表しかつ支援すること。

(3) 政府に対し、子どもおよび若者の権利および利益を守るために必要な改革またはその他の措置を提案すること。

(4) 子どもの安全の分野において、防止のための社会の努力を調整するためのイニシアチブをとること。

子どもオンブズマンは、とくに困難な状況にある子どもおよび若者に影響を与える問題に、とくに注意を払う。子どもオンブズマンは、その活動において、子どもおよび若者ならびに非営利組織および公的機関等との接触を保ち、また、子どもおよび若者に関わる調査および発展を積極的にフォローする。

第３項　子どもオンブズマンは、毎年１０月１日までに、前年の７月１日から当該年の６月３０日までの活動について政府に報告する。

＊２００２年７月１日より、旧法と旧指示規則を統合した改正法が施行されている。改正法の日本語訳はこちらを参照。

このように、スウェーデンの子どもオンブズマンは国連・子どもの権利条約を直接のきっかけとして、同国におけるその遵守状況を監視することにとくに力点を置いて設置された機関である。初代オンブズマンには、子ども支援団体で活動してきたルイーズ・シルワンダー（Louise Sylwander) が任命された。十二人の委員から構成される特別審議会（法第二条）の支援を受けながら、十四人のスタッフを擁して活動を行なっている。

指示規則からもわかるように、オンブズマンの主要な任務は、条約の実施も含めて子どもや若者の権利の一般的状況を監視し、法改正を含めて必要な措置を唱道・提案することである。ある事例をきっかけにして何らかの措置を提案することはできるものの、学校問題を含めて個別の事案に介入する権限は与えられていない（ただし、子どもの個人情報も含めて必要な情報を公的機関に求める権限は与えられている）。この点が、ノルウェーの子どもオンブズマンなどとは基本的に異なるところである。

したがって、オンブズマンの活動においては、条約についての情報提供も含む世論喚起が大きなウェイトを占める。これまでに、学校におけるいじめや条約実施における自治体の役割などの問題を取り上げてきたという。年次報告の提出（指示規則第３項）は、こうした目的のためにも重要である（年次報告書は国連・子どもの権利委員会にも提出される）。子どもや若者の代弁・支援（指示規則第２項）をするためには彼らとの日常的な接触が必要だが、それはフリーダイヤルのテレホン・サービスや学校への訪問などの手段で維持されている。

オンブズマンはこれまで、保育、ポルノグラフィー、性的虐待、難民・庇護申請者などの分野で多くの法改正の提案を行ない、子どもの権利委員会による第一回締約国報告書審査（１９９３年１月）後の立法措置に影響を与えてきた。また、(a)議会に提出する予算案に前年度の子ども・若者政策についての声明を盛りこむこと、(b)自治体・学校レベルでの意思決定に子どもたちの声を反映させること、(c)条約と国内法の関係についての解説書を作成することなどの政策提案も行なっている。

「オンブズマン」はもともとスウェーデン語で「代理人」の意味である。これまでの活動を見るかぎり、同国の子どもオンブズマンは子ども・若者一般の代理人としての役割をよく果たしているように思える。

◆参考文献

Marian Koren, "A children's ombudsman in Sweden", International Journal of Children's Rights 3: 101-118, 1995

Innocenti Digest No.1: Ombudswork for Children, UNICEF International Child Development Centre, Florence, 1997

The second periodic report of Sweden to the Committee on the Rights of the Child (U.N. Doc., CRC/C/65/Add.3, 1998).

平松毅「スウェーデンにおける人権擁護とオンブズマン」マイノリティ研究会『各国の人権擁護制度』解放出版社、１９９５年